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特別対談

2019年1月に公開された映画の第1弾「映画刀剣乱舞-継承-」に引き続き監督を務めた耶雲哉治氏と、主題歌「DESTINY」を手掛けたBLUE ENCOUNTのボーカル&ギター・田邊駿一氏の対談が実現。
映画と主題歌について語り合ってもらった。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ

■「刀剣乱舞」はとてつもなく巨大なエンタテインメント

――まず、耶雲監督が「刀剣乱舞」シリーズをどう捉えているのか、そのうえで「映画刀剣乱舞-黎明-」の制作にどのように向き合ったのか、教えていただけますか?

耶雲哉治 「刀剣乱舞」はゲーム「刀剣乱舞ONLINE」を原案として、いろいろなメディアで作品を発表しています。出てくるキャラクターが同じなので、全部「刀剣乱舞」の冠はついているのですが、内容はそれぞれ全く違うんですよね。それはなぜかというと、大元の「刀剣乱舞ONLINE」にものすごく余白があるから。キャラクターの台詞はあるものの明確なストーリーのない育成シミュレーションゲームなので、「この台詞とこの台詞の間にはどんな物語があるんだろうか?」といろいろな人が想像して、余白を埋めるように、アニメや舞台、漫画など様々な作品を作り上げているんです。僕が「刀剣乱舞」の映画を撮るのは今回で2作目ですが、1人の作り手として、恵まれた環境で制作させてもらっているなと思っています。

田邊駿一(BLUE ENCOUNT) 余白がたくさんあるから、クリエイターの自由度が高いということですよね?

耶雲 そうです。だから「刀剣乱舞」がどういうシリーズなのかというと、みんなの想像力をすごく刺激するものだと思います。ただ、キャラクターから外れない為のレギュレーションがもちろんあるし、その上で独自性を持たせるには「刀剣乱舞」の世界にどっぷりと浸かっていないと発想として出てこない部分もあるので、大変な部分も多いです。

田邊 なるほど。僕は「刀剣乱舞」の映画を観るのは今作が初めてだったんですが、今作がとても面白かったので、そのあと自分でディグったんですよ。調べながら「あ、こういう繋がりだったんだ」と知って。僕のように映画から入った人もいれば、ゲームから入った人も、どのメディアから入っても、こうして「刀剣乱舞」の世界にハマっていくんだろうなと体感しました。この「刀剣乱舞」というエンタテインメントはまだまだとてつもない可能性があると改めて感じました。

耶雲 だって、新キャラクターもどんどん出てくるわけですよ。

田邊 次はその新キャラクターを主人公にした作品が生まれるかもしれない、と。リアルタイムでどんどん広がっていくエンタメって、スマホアプリが主流になった時代ならではという感じがします。あまりにも巨大な世界だから、同じエンタメ業界に身を置いている人間からすると、「参りました」としか言いようがない。

耶雲 知れば知るほど楽しい世界ですしね。それに、日本刀にまつわる逸話ってたくさんあるから本当に奥が深いんですよ。僕はこの仕事をするまで日本刀にそんなに興味がなかったんですが、この前、映画「レジェンド&バタフライ」の予告を観たときに「あれはなんの刀かな? 蜘蛛切丸?」と気になっちゃって(笑)。

田邊 あはははは!

耶雲 おそらく「刀剣乱舞」ファンの方々は、時代劇とかもそういう目線で観ているんじゃないかな? 「この時代にこの城にはどの刀があったか」という知識もみなさんご存じですし。

田邊 「刀剣乱舞」シリーズを楽しんでいると、自然と日本史にも詳しくなっちゃうんですね。

■正直めっちゃ不安でした

田邊 うちのバンドの辻村(勇太)は歴史オタクなので、試写会が終わったあと、「この場面はこういう時代なんだよ」と解説してくれたんですよ。彼の解説を聞いて「そうか、この時代が舞台になっているのにもしっかりとした理由があるんだな」と改めて思いましたし、辻村も「伏線がちゃんと回収されるから気持ちいい!」と言っていました。

耶雲 うれしいです。

田邊 特報映像や予告映像を観て、「刀剣乱舞」ファンの方々もびっくりしたんじゃないんでしょうか。だって最初の特報映像では平安時代のシーンしかなかったのに、2本目の特報映像で「現代の歴史を守れ」というフレーズが出てくるじゃないですか。しかも予告映像には刀剣男士の本拠地“本丸”がある2205年のシーンに加え、2012年のシーンまで出てくる。

耶雲 きっと「なんで2012年?」と思いますよね。

田邊 どうして3つの時代を舞台にしようと思ったんですか?

耶雲 今回の映画には「『刀剣乱舞』で見たことがないことをプロの力で全力でやる」というテーマがありました。

田邊 なるほど! だから現代建築物をバックに刀剣男士が戦ったり……。

耶雲 いやー、正直めっちゃ不安でしたよ。

田邊 あはは! 僕は痺れましたよ。「やっぱり映画はこうじゃないと!」って。どんな作品でも賛否両論あるものだし、これだけ思いきり振り切っている作品の方が痛快でいいじゃないですか。

耶雲 そう言ってもらえて安心しました。

田邊 僕は元々アクション映画が好きなんですが、『映画刀剣乱舞-黎明-』を観て、邦画でこんなに痛快なアクションシーンがある映画はなかなかないなと思いました。

耶雲 チャンバラなんて今はほぼないですよ。

田邊 しかも渋谷のスクランブル交差点でチャンバラやってますからね! スクランブル交差点でのシーンは登場人物が大勢集結するので、もちろん「刀剣乱舞」ファンの方にとって胸熱なシーンだと思うんですよ。同時にハリウッド映画級に手に汗を握るシーンなので、僕もアクション映画ファンとしてめちゃめちゃ興奮しました。

■暗闇の中で効果を発揮する“音”

――田邊さん、せっかくなので『映画刀剣乱舞-黎明-』を観た感想をぜひもっと聞かせてください。

田邊 いやー、最高でしたよ! 見応えがあって、本当にあっという間でした。僕が携わらせていただいた作品を拝見するときはいつも「そろそろ主題歌が来るぞ……!」と終盤はドキドキしているんですよ。だけど今作に関しては、エンドロールが始まった瞬間に初めて「そういえばそうだった!」と思い出して。時間も忘れるほど没入していましたね。一緒に試写会に行ったうちのメンバーもめっちゃ興奮してました。「VFXスゲー!」って。

耶雲 うれしいなー。

田邊 やっぱり一番好きなのは、登場人物1人ひとりの物語が感じられるところですよね。刀剣男士はもちろん、福岡のギャルの子にもいろいろあったんだろうなと思いながら……「ああいう子、地元にいたな」「俺もあのバスよく乗ってたな」とも思いながら。

耶雲 そっか、ご出身は熊本でしたよね!

田邊 はい。天神のバスターミナルにはしょっちゅう行ってました。あと、音響も最高でしたね。刀と刀がぶつかり合うときの効果音やSE、挿入歌、1つひとつの完成度がすごく高くて。

耶雲 シーンごとに「時代劇風」「コメディ風」「官僚モノ風」とテーマを設けて音楽の作り方を変えたので、こだわりを感じてもらえてうれしいです。“画音半々”という言葉もありますが、僕は画よりも音のほうが重要だと思っているんですよ。これ、あんまり大きな声では言えない話ですけど(笑)。だって映画は暗闇で観るもので、“暗”と“闇”という漢字にはどちらにも“音”が入っているじゃないですか。

田邊 なるほど!おしゃれ!

耶雲 暗闇の中でスクリーンだけがポンと光っている。そのときに効果を発揮するのが音なんですよね。

■主題歌はエンドロールのBGMじゃない、映画の一部なんだ

――“音”に対して強いこだわりを持つ耶雲監督が、BLUE ENCOUNTに主題歌を依頼したいと思ったのはなぜだったんでしょうか?

耶雲 「主題歌は誰にお願いします?」という話になったとき、映画にちゃんと寄り添ってくれる人にお願いしたいなと思ったんですよ。「主題歌はエンドロールのBGMじゃない、映画の一部なんだ」という気持ちで一緒に制作してくれる人がいいなと。その観点から考えていったんですが、BLUE ENCOUNTがこれまで手がけてきた映画やドラマ、アニメの主題歌を聴いたとき、どの主題歌も作品の世界観にすごく寄り添っているように感じたんです。「これは、オープニング映像を作っているスタッフもきっと楽しかっただろうな」とそれぞれの曲から想像できたので、『映画刀剣乱舞-黎明-』の主題歌もぜひBLUE ENCOUNTにお願いしたいなと思いました。

田邊 そう言っていただけてうれしいです。

耶雲 実際に上がってきたデモを聴いたとき、「めっちゃ寄り添ってくれるやん!」と思いました。なんなら寄り添いすぎて、ちょっと近いと思っちゃうくらい(笑)。

田邊 近すぎてちょっと嫌がるレベルですよね(笑)。

耶雲 びっくりするくらいのストレートで、ドンとストライクゾーンに来てくれて。歌詞を読んだとき、これだけで1つの物語ができているなと感じました。

田邊 僕が最初に観させていただいていたのは、編集前の仮の状態の映像だったんですよ。VFXも音楽も入っていなくて、まだグリーンバックのままのシーンも多かったんですが、その映像を観たとき、冒頭の「This is DESTENY」というメロディと言葉が浮かんできました。役者さん一人ひとりの所作や監督の撮られた映像の質感から、僕はこの物語における様々な方面への愛を感じ取ったんです。その愛が「DESTENY」という楽曲を作るうえでの原動力になりました。サビのメロディは熊本城の目の前で思いついたんですよ。

耶雲 そうなんですか!

田邊 はい。「This is DESTENY」という最初のフレーズが出てきたものの、それ以外がなかなか思い浮かばず、難産になりそうな気配があったので、地元の熊本に弾丸で帰って。久々にじいちゃんのお墓に手を合わせて、1日かけて掃除したあと、「そういえば最近行ってないな」と幼少期によく行っていた熊本城に足を運んでみたんです。そしたらこのサビが出てきました。

――「刀剣乱舞」との縁を感じさせるエピソードですね。

田邊 そうなんですよ。この楽曲自身がいろいろな“DESTINY”を孕んでいたということですね。

■この作品の歯車になれたら

――監督から田邊さんへ何か具体的なオーダーはしましたか?

耶雲 田邊さんには「明日へとつながる希望」というテーマでお願いしました。映画のサブタイトルの「黎明」は夜明けという意味なので、映画を観終わったあと、ここからまた何かが始まると感じられるような主題歌がいいなと思って。

田邊 そういえば「このワードを入れてほしい」という具体的なオーダーはなかったですよね。「新たな夜明けに」という歌詞も映像を観て自然と出てきたもので、監督から指示があったわけではないので。

耶雲 もちろん僕にも「細かく指示したい!」という気持ちはあるんですよ。だけどこちらからはあんまり言いすぎないようにしようと、いつも気をつけています。役者や各部門のスタッフに指示するときもそうですが、細かく指示するよりも、テーマを一つ与えるだけに留めておいた方が、僕が想像した以上のものをみんなが返してくれるんですよ。

田邊 なるほど!

耶雲 この「DESTINY」も、違うところから同じものを見ているんだと感じられる楽曲で。それが素晴らしいですよね。やっぱりBLUE ENCOUNTに主題歌を制作してもらえてよかったです。それこそ田邊さんが「エンドロールのBGMを作る」という感覚ではなく、僕らと同じく「映画の一部を作っているんだ」という感覚で向き合ってくださった証なんじゃないかと思います。

田邊 まさに「この作品の歯車の一つになれたら」という気持ちで作らせていただいたので、そう言っていただけて本当にうれしいです。

耶雲 普通、自分の作ったアートを“歯車”だなんて言えないですよ。はっきりそう言ってくださるのが僕からすると本当にありがたい。この出会いにとても感謝しています。

COMMENT

耶雲哉治監督

お待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません。色々ありましたが関係者の熱い念いと執念が結実しついに映画刀剣乱舞第二弾が動き出すことになりました。そして刀剣男士のキャストも鈴木拡樹と荒牧慶彦を中心とした最高の布陣で出陣することとなりました。前作同様、監督を仰せつかり武者震いが止まりません。チーム一丸死力を尽くし千年先の世にも残る作品を目指したいと思っております。

鈴木拡樹三日月宗近 役

『映画刀剣乱舞』の第二弾が始動します。さまざまなメディアミックスで展開し、それぞれの本丸の物語を届け続けている刀剣乱舞。今作はその中でも意外な展開の物語になります。わくわくしながらお待ち頂きたいですね。また『映画刀剣乱舞』の魅力のひとつの大迫力の殺陣シーンも力を入れてお届けします。どの刀剣男士が共闘するのかも注目して頂きたいと思います。最後に、こうして映画第二弾が実現出来たのは、作品を希望し支えてくださる皆様のおかげです。映画公開まで、楽しみにお待ちください。

荒牧慶彦山姥切国広 役

前作の『映画刀剣乱舞-継承-』の公開から早3年。続編をまだかまだかと待ち侘びていました。再びスクリーンに山姥切国広が出陣致します。耶雲監督ともお久しぶりなので撮影がすごく楽しみです。今はまだ脚本を読んだ段階ですが、前作とはまた違う惹き込まれるお話となっています。そこに山姥切国広がどう絡んでどう活躍するのか。この脚本が一本の映画として出来上がったとき、どういうものになるのか。お客様の反応が今から楽しみです。ぜひお楽しみに。

小坂崇氣(でじたろう)エグゼクティブ プロデューサー/原作プロデューサー

『刀剣乱舞ONLINE』は多くのお客様にプレイ頂いたお陰をもちまして、2023年1月に八周年を迎えることができました。
この場をお借りして改めて御礼申し上げます。
八周年を記念してお届けする『映画刀剣乱舞-黎明-』は、新型コロナ感染拡大による未曾有の状況の中で本格的に企画が走り出しました。
コンテンツにできることとは何かを常に考えていたように思います。私たちは日々、学校で、家庭で、職場で、様々な場所で、誰しもが懸命に戦っています。
そのような誰かを少しでも元気にさせることができるのは、同じく懸命に戦う姿かもしれない。そう考えて、刀剣乱舞を作り始めました。
本作でもそれを大切に踏襲しながら、戦う仲間に現代の人々が加わります。「平安」から千年の時を越えての「現代」への出陣を、東宝さんが目標とされていた、刀剣乱舞をご存知なくても楽しんでいただけるエンターテイメント映画にすることを、耶雲監督をはじめ出演者や多くのスタッフが念いを込めて実現くださっていると思います。
ぜひ刀剣乱舞の世界の入口としてご覧頂ければと思いますし、これもまた刀剣乱舞の可能性の中のひとつとしてお楽しみいただけますと幸いです。

田邊駿一BLUE ENCOUNT

恋をした。一人一人の所作に、一人一人の人柄に、そして一人一人の運命に。
最初にいただいた本編の映像は編集前の仮の状態。故にその映像に音楽などはほとんど入っていなかった。
そこに存在したのは登場する方々の迫力あるセリフ回しや鍔迫り合う刀の響き。私はこの時点でこの作品に恋をしました。
全ての登場人物が自分の運命と戦っているその生き様に。まどろこしいことは何もありません。
今回、この作品への楽曲を書けた原動力はその恋心だった気がします。
男士(おとこ)の漢(おとこ)に敬意を込めて、私も負けぬように運命という名の旋律を紡ぎました。あなたに届きますように。